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福岡高等裁判所 昭和30年(ネ)721号 判決

熊本市藪の内町一五番地

控訴人

亀甲証真

右訴訟代理人弁護士

荒木鼎

熊本市花畑町

被控訴人

熊本国税局長

飯田良一

右指定代理人

川本権祐

新盛東太郎

小松正文

高橋左伝

右当事者間の昭和三〇年(ネ)第七二一号審査請求棄却処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。熊本市藪の内町一五番の五宅地一八一坪九合八勺に対する熊本地方法務局昭和二六年一一月二八日受付第一〇九七二号の差押登記に基く被控訴人の公売処分及び同処分に対する控訴人の審査請求に対し昭和二九年一〇月九日被控訴人のなした棄却決定は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め被控訴指定代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出認否は原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

被控訴人が訴外高柳健次に対する国税滞納処分として熊本市藪の内町一五番の五宅地一八一坪九合八勺を差押え、熊本地方法務局昭和二六年一一月二八日受付第一〇九七二号による差押登記を経由した上昭和二九年九月一七日控訴人に対し公売期日を同月二九日とする旨の通知をなした事実、控訴人がこれに対し審査請求をなし被控訴人において同年一〇月九日その請求を棄却する旨の決定をなした事実については、いずれも当事者間に争のないところである。

控訴人は、右宅地は地上家屋とともに控訴人が訴外高柳健次から同人が本件国税滞納による差押を受ける以前昭和二五年五月一九日にこれを買受けその所有権を取得したものであるから、同訴外人に対する国税滞納処分により右宅地が公売に付されるいわれがないと主張し、被控訴人は、仮に右宅地の所有権が前記訴外人から控訴人に移転したとしても、控訴人はその移転登記を経ていないから所有権取得をもつて被控訴人に対抗し得ないと抗争するから按ずるに、国税滞納処分としての差押、公売処分は国税債権に基いて行われる一種の強制執行であつて一般私債権の債務名義に基く強制執行と本質的には異ならないものであるから、右滞納処分の場合にも目的不動産が債務者の所有であるか否かについては民法第一七七条の適用があると解するのが相当である。しかして、控訴人がその主張のように前記訴外高柳健次から右宅地の譲渡を受けていたとしても、その所有権取得登記を得ていないことは控訴人の自認するところであるから、右所有権取得をもつて被控訴人に対抗し得ないこと明らかである。そして、被控訴人が本件差押前に右譲渡の事実を知つていたか否かは叙上の論定に影響がない。

更に控訴人は、前記宅地の差押当時訴外高柳健次の滞納国税は殆んど存在しておらず仮に存しておつたとしても時効により消滅していたと主張するが、前記差押にかかる宅地が控訴人の所有に属することを以て被控訴人に対抗し得ない以上、右滞納国税の存否如何にかかわらず控訴人には本件公売処分を妨ぐる権利がないこと明らかであるから、右主張は理由がない。

さすれば、控訴人の請求はいずれも失当であつて、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹下利之右衛門 裁判官 小西信三 裁判官 岩永金次郎)

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